はじめに:「完結」は、次の「始まり」でした
以前の記事で、受注から配送追跡までの自動化プロジェクトについて、「プロジェクト完結」としました。
しかし、正直に言います。 あれは「第一章」の完結に過ぎませんでした。
私たちは今、そのシステムをさらにバージョンアップさせています。 一度作った仕組みを壊しているわけではありません。今まで作り上げてきた土台の上に、さらに新しい「脳(AI)」を搭載し、アナログなFAX業務をデジタルの世界へ本気で引き込もうとしています。
今回は、技術的な難しい話は抜きにして、「なにがどう賢くなったのか」「なぜまた手を加えているのか」というバージョンアップの過程をお話しします。
3段階のステップ
振り返れば、このシステムは今年に入ってから3段階のバージョンアップを遂げています。
第1形態:FAXを「画像」として届ける
最初に取り組んだのは、「紙のリレー」をやめることでした。 FAXが届いたら、それを自動でPDF(画像)にして担当者に通知する。これだけでも「紙を持って走り回る」時間はゼロになりました。でも、中身はまだ「単なる画像データ」でした。
第2形態:デジタルデータなら「全自動」
次に、メールなどで送られてくるデジタルデータ(CSVなど)については、取り込みから配送の追跡までを完全に自動化しました。 これでデジタルのルートは開通。「完結」と言ったのはこの時点です。
第3形態:FAXの中身を「理解」する(イマココ)
そして今回。残された「手書きやレイアウトの異なるFAX」に挑んでいます。 以前のように単に「画像として保存」するのではなく、「何が書いてあるかをAIが読み解き、データにする」ところまでできました。
仕組みは「いいとこ取り」のハイブリッド
システム全体を入れ替えたわけではありません。 9月に構築した「配送追跡の自動化」などのうまくいっている部分はそのまま残しています。

その入り口と保管場所に、より良い仕組みを追加しました。具体的には、FAXが届いてから配送追跡まで、以下の3つのステップでデータが流れていきます。
- 入り口(FAX受信): 「紙」をなくし、AIが「読む」
まず、FAXが届いた瞬間の動きがガラッと変わりました。複合機から紙が出力されることはありません。
- デジタル化と原本保管: FAXを受信すると、システムが自動でPDF画像に変換し、クラウド上のフォルダへ保存します。同時に「いつ、どこから届いたか」という履歴ログも記録。「原本」は画像として安全に保管されるため、紙の紛失リスクはゼロです。
- AIによる解析(構造と意味の理解): デジタル化されたFAXを、2種類のAIが自動で解析します。 まず「帳票の構造に強いAI」がレイアウトを読み解きます。例えば、「右上の日付は発注日で、表の中の日付は納期だ」というように、配置場所からその情報の役割を正確に特定します。
- 次に「言葉を理解するAI」が中身を読み込みます。備考などに「来週月曜納期で」といった手書き文字も、「〇月〇日のことですね」と具体的なデータに変換してシステムへ渡します。
- 保管庫と管理画面: 「厳密さ」と「見やすさ」の両立
読み取ったデータは、「機械用」と「人間用」の2箇所に、同時に自動で書き込まれます。
- クラウド上のデータストア(保管庫): 重複データのチェックやデータの整形を行い、システムが扱うための正しいデータを厳重に保管します。 さらに重要なのが「在庫管理」です。 実はこの保管庫、単なる注文の記録だけでなく、在庫の増減も管理する役割を持たせています。「注文が入った=在庫が引かれる」という処理も、この裏側で厳密に行われています。
- 受注履歴一覧(スプレッドシート): 同時に、普段私たちが使い慣れているスプレッドシートへもデータを自動転記します。担当者はこの履歴一覧を見るだけで、「今どんな注文が来ているか」を確認・編集できます。
裏側のデータベースで在庫も含めた堅牢性を保ちつつ、表側の画面は使いやすいスプレッドシートのまま。 この「いいとこ取り」が現場の混乱を防ぎます。
- 出口(配送・追跡): ロボットによる「自動巡回」
ここは既存システムの活用部分です。 出荷が完了すると、プログラム(巡回ロボット)が動き出します。
- 自動追跡: ロボットが1日に数回、運送会社の追跡サイトへアクセスし、荷物が「発送済み」なのか「配達中」なのかを確認しに行きます。
- 状況の共有: その結果をお客様専用の確認画面(ポータル)に自動で反映します。
これにより、「あの荷物、今どこ?」という問い合わせに対して、人間が調べて答えるのではなく、システムが先回りして情報を提供できる仕組みになっています。

- ちなみにコストは…「SaaSの1/10以下」です
通常、ここまでの精度が出るFAX-OCRシステムを外部サービス(SaaS)で導入しようとすると、初期費用に加え、月額数万円〜十万円単位の固定費がかかるのが一般的です。
しかし、私たちは「必要なパーツ(API)」だけを組み合わせて自作しています。 そのため、かかる費用は「FAX 1枚あたり数円」という従量課金のみ。
- SaaSの場合: 使わなくても毎月固定費がかかる。機能は決まったものしか使えない。
- 自社開発の場合: 使った分だけ(1枚数円)。画面も機能も、自分たちが使いやすいように自由に作れる。
「既存の有料サービスに頼らず、自社専用の使い勝手を優先しつつ、コストは極限まで抑える」。 これも、私たちが技術を内製化している大きな理由の一つです。
次なる挑戦:入力も、返信も、自動化したい
システムはまだ開発途中であり、次に実装したい機能も明確に見えています。
FAX受信→PDF変換→帳票解析→構造化/補正→保管→シート転記→追跡まで自動化できましたので、その次のステップへ。あと2ステップ程を作り込む予定です。
「アナログな入り口(FAX)」と「デジタルの出口(データ活用)」の間に横たわる溝を、完全に埋める。 人間が作業としての「入力」をするのではなく、AIが整えたデータを人間が「確認・判断」する。空いた時間は「お客様への細やかな対応」や「新しいサービスの企画」といった、人間にしかできない仕事に。
FAX受信→PDF変換→AI帳票解析→AI構造化/補正→DB保管→シート転記→追跡
失敗も成功も含めて、業務効率化そのものを今後も発信していきたいと考えております。
この記事が、会社の業務改善、そしてAI活用のヒントになれば幸いです。

